インテリア / Interior

ピントフ™ / PINTPH™
とある工場に新人の労働者がやってくる。工場では“ピントフ”と呼ばれる霧吹き道具を用いて、コンベアーから流れてくる段ボール箱の表面だけ湿らせるという単純作業が繰り返されている。労働者間で交わされる非生産的なやりとりや工場内で同時多発的に立ち起こる出来事は霧のように現れては消えていく。『ピントフ』(2015)、『ピントフズ』(2016)と続く『ピントフ』最終章。
【京都公演】
第二回全国学生演劇祭
2017年2月24日- 2月26日
ロームシアター京都 ノースホール
脚本・演出|福井裕孝
出演|奥村半太 田岡真路 立脇魁人 山本拓耶 LuciaSeong OnewSeong 楢兎美笑
主催|全国学生演劇祭実行委員会, ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)
製作|劇団西一風
【大邱公演】
東アジア文化都市2017京都/第二回大韓民国演劇祭 in 大邱
2019年6月15日- 6月17日
鳳山文化芸術会館ラオンホール
脚本・演出|福井裕孝
韓国語訳|OnewSeong
出演|奥村半太 田岡真路 立脇魁人 西村あかり 山本拓耶
LuciaSeong OnewSeong 楢兎美笑 門田佳久
製作|劇団西一風
素晴らしい作品だった。不穏さ、空気の淀み。原発事故後、何かがこの国に漏れている感じを描写していた。単純な流れ作業の時間と空間を設定することで、物語の時間ではなく、出来事の連鎖によって演劇本来の時間、得体の知れない雰囲気や空気を見せようとしていた。そこにある光景・風景を観客に眺めさせること。噴霧器による霧の浮遊感もあるのか、流れる時間、移ろいを見せることに成功していた。ほとんどの演劇はドラマを葛藤だと思い込み、舞台上に心理的な緊張をもたらすことに躍起になるが、この劇では、時間が弛緩していた。この劇特有の遠近法がある。それはマイナー演劇であり、出来事の演劇である。無駄でどうでもいいような時間。空虚な空間、間隙を私たちは言葉や記号、意味(意義)で埋めようとする。すでに成り立ってしまっている価値観に安心している。マイナー演劇は本来の現実とこの身体の意味、つまり、出来事の起こる空間と時間を回復してくれるのだ。
第二回全国学生演劇祭 講評
松田正隆氏(劇作家/演出家/マレビトの会代表)
2015「ピントフ」2016「ピントフズ」も見ていたかったと思う。何も起こらない芝居というのは、実は何も起こらないということが起こってしまっているのだが、この芝居は必ずどこかで静かに何かが起こっていて、その部分が全体の何も「起こらない」という主題を支えている。これはかなり高度な演出であるし、斬新さという言葉が即座に陳腐化するくらいに刺激的である。ものを食べるのが上手い俳優として時代劇の藤田まことをすぐに思い浮かべるのだけれど、ヘタウマを「確実に創っている俳優」が何人もいる。方法論を持っている劇団は強いし、方法論から見えてくる日本の位相のとらえ方も鋭くなる。おそらくベケットができる学生劇団はここ以外そうそうないのではないだろうか。熱狂とは秘めてられてしかるべきだし、身体的なしなやかさは通常の速度をつくり込むことで強度を担保する。
様々な影響力を持った作品だった。素晴らしい舞台だった。
第二回全国学生演劇祭 講評
長谷川孝治氏(劇作家/演出家/弘前劇場)