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実家へ行くとき / 2020年7月18日 14時頃

中谷優希 
千葉県

わたしの家の一階は、玄関しかない。靴を脱いだら、まっすぐ二階へつづく階段がある。階段を登ったら、正面にトイレと左に部屋へ行く扉がある。部屋は4室ほどあるが、どの部屋へ行くにも階段の左の扉からしか出入りできない。 この階段と部屋を隔てる扉は、わたしの生活空間とそうでない、宙吊り状態の空間を隔てる境界となっている。境界というと聞こえはいいが、単にわたしが怠惰な性格だからそうなっている。「そうなっている」というこの宙吊り空間とは、届いた荷物置き場と化している階段のこと。 例えば、箱馬と同時期に届いた物を挙げてみる。Amazonから注文した本、これは積読として本棚にしまうか、これから読むために机や鞄へ移動される。飲料水のパック、飲むときに冷蔵庫へ入れる。それまでは階段待機。実家から届いたアレコレ、食べ物は即冷蔵庫へ。母の想いを感じるなんかいろんな便利グッズは、一通り見て、階段の段ボールへそのまま放置(母さん、ごめん🙏)。そのうち使うときがくるので、時がきたら引っ張り出してくる。調理器具なら食器棚へ。お掃除グッツなら洗面台の下の収納スペースへ。みんな、使うときにどこかへ配属されていく。でも、ファッションブランドから届いた、卒制(20202月上旬)で使用した「版」は、使うべき時が過ぎているから、ずっと階段にいる。部屋には入れない。 箱馬は?箱馬も階段で開けて、段ボールから取り出してみて、そのまま階段に置いた。そのうち使う時があったなら、部屋に入るのかな、と思った。けど、預かり期間終了日まで、部屋に入ることはなかった。ずっと階段にいて、怠惰なわたしの鍵置き場になった。これは箱馬に限った話ではなく、わたしは階段にあるいろんな段ボールの上に鍵をよく置いていた。投函されるチラシもそこに置く。それで散らかる。でも、しっかり者の同居人はそこに鍵を置かない。所定鍵置き場を作ってそこに置いていた。背が高く、わたしより体が大きい同居人は、階段を通るとき、段ボール群によく引っかかる。箱馬にも引っかかる。「うんっ」って言って通ってた。 それで、大掃除の時がきて、同居人によって、階段の段ボールの中身は、大方生活空間のどこか配属先へいってしまった。でもやっぱり、使用済みの版と使用する予定のない箱馬は、階段に残った。あとなんか小さい段ボールも残ったけど、中身を知らない(覚えていない)。でも部屋に入れなかったってことは、使用する予定のないものなのかもしれない。 箱馬は部屋に入らなかったけど、わたしが出かけるときに見送って、帰った時に迎えてくれた。ただそこにあるだけなんだけど、玄関の出入り時に目に入るもので、そんなナラティブな言い回しもできちゃったりする。 箱馬、最初から最後まで、なんかずっと階段にいた。京都へ帰ってしまって、もうそこに居なくなっても、わたしは今まで通りの生活をしている。来た時だって、何ら変わらなかった。何か変化を期待して、この企画に応募したわけじゃあないから、箱馬との数週間について書いている今が、いちばん変なことをしている。と思う。

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実家から帰ったとき / 2020年7月26日 18時頃

〈プロフィール〉

中谷優希(なかや・ゆうき)

現代美術とファッションを学び、表現活動を行なっています。

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