top of page
image1-2.jpeg

テーブルで人とものが共演する『デスクトップ・シアター』。少し謎めいて見えるこの作品、作り手にとっても試行錯誤の連続です。いったいどういう作品なのか、具体的なエピソードやキーワードをドラマトゥルク(座組全体のサポート役)の朴建雄がクリエーションメンバーから聞き、創作の現在地を共有していきます。

今回は6回目。舞台美術の古舘壮真と演出の福井裕孝に話を聞きました。

アセット 3.png

vol.6

空間d

空間で関係性を生み出すプロダクト

 

 

朴   まず、お二人がどう知り合ったのかを伺えますか?

 

 

古舘  福井さんとはクマ財団の同期で、財団のエキシビジョンで一回テーブルを作らせてもらって、そこからちょっと期間があいて、京都でやってくれませんかという話がありました。

 

 

福井  クマ財団で年度末の作品をブラッシュアップする合宿が2回くらいあったんですけど、そのどっちかで、こういう作品でテーブル作りたいんですって古舘さんに話を持ちかけたのが最初だと思います。

 

 

古舘  合宿で同じ服装だったんです。カーキ色のパンツ、白のロンT、黒のニット帽。同じ恰好のやついる~と思って。合宿の最初には自己紹介の時間があったので、その時にお互いなにをやっているかは聞いていました。

 

 

福井  僕はその全体の自己紹介だけだとよくわからなかったので、全員のポートフォリオとかバーっと見てたんですけど、そこで古舘さんのPlaw』も見ていて。で、上演の構想を考えたときにそれを思い出して、これでテーブル作れたらいいなと思って合宿で話しました。

 

 

   なるほど。ちなみに古舘さんは演劇にご興味ありましたか?

 

古舘  演劇を観たことはあったけど、接点はなかったです。でも話してるときに出てくる言葉とかに、近しいところを感じました。自分はプロダクトを作るときに、人とものの関係性を考えています。いわゆる家具製品というよりは、もうちょっとコンセプチュアルなものを作っていて、空間で何が起こるのかをデザインしています。

image2-2.jpeg

MASS  ©︎SOHMA FURUTATE

勝手なイメージですけど、演劇やってる人っていい意味であんまり人に興味ないことが多いのかなと思ってました。自分の世界を持ってる人が多い。このあいだも京都に行って、稽古場でいろんな方に会ったんですけど、どうやって接したらいいのかわからなくて。コミュニケーションの取り方がわからないうちに、テーブルを組んでバラして終わりましたね。話しかけていいのかな、という感じがありました。

既に

既にテーブルやん/テーブルに見せたい

 

   ロームシアター京都で、実際の劇場空間とテーブルを見てどうでしたか?

 

 

古舘  実際に行く前から写真と図面でなんとなくのスケールはイメージできてたんですが、思ってたよりコンパクトでしたね。壁も天井も全部真っ黒だったからそう感じたのかもしれません。テーブルは空間に対してはちょうどいいサイズでした。ロームシアター京都のノースホールの空間の中に入った時に、あれくらいないと小さすぎるのかなと思いました。

 

舞台の備品とか普段見ることがないので、テーブルの形に組まれたステージデッキがテーブルにしか見えませんでした。最初はテーブルを作ろうという話だったけど、あるもので代用することにして、ステージデッキを使うことになりました。ステージデッキを日常のテーブルに近づけたいという話をずっとしていたけど、実際に現場に行ってみたら、天板ついててつ脚がついてたらテーブルに見える。舞台やってる人にもどうテーブルに見えるようにするか、考えたかったんです。

 

 

   既にテーブルやんという古舘さんと、テーブルに見せたい福井さんの葛藤ですね......。

 

 

福井  去年の11月ごろ話していたときは、テーブルをイチから作って劇場に持ち込むつもりで、古舘さんから設計案を出してもらっていました。ただノースの空間のスケールを考えたときに、まあまあサイズとコストが必要やなってなって、それで元々劇場にあるものからテーブルを作ろう、ということになりました。そもそも劇場で使ってるものなので、テーブルにも見えるけど、個人的にはもともとのステージデッキとしての備品の姿が先立って見えてました。

 

いろいろ話す中で、ノースホールの床を持ち上げる、みたいな話にもなってて。そういう意味では、ステージデッキは劇場の備品であり、床(地)でもあるので、それをテーブルにすることにはすごく納得はできました。テーブルと舞台の二面性がありますけど、どちらかというとテーブルというよりは、つの脚に支えられて浮いている舞台って感じですね

 

 

   そのテーブル性と舞台性のバランスが問題になってきますね。

 

 

福井  今回のテーブルは構造的にはステージデッキそのままで、ただ高さと用途を変えただけです。なので、テーブルに寄せるためになにか意匠を加えたいと古舘さんに相談しました。今はテーブルサインを置こうみたいな話をしています。それぞれのテーブルにノースホール内の方角に応じて名前がついているので、ノースホールの外に「ロームシアター京都ノースホール」とサインがあるようなイメージで、テーブル上にテーブルの名前を示すサインを作って、それを一つのものとして置けないかと話しています。

 

 

   そうやって名前がくっついてるテーブルってあんまりありませんよね笑。劇場は確かにどこでも名前ついてますが。ステージデッキが、テーブルから舞台よりになってきているんでしょうか?

ステージデッキをテーブルにもっていく

 

福井  ステージデッキをテーブルに転用することが決まってから、古舘さんのクレジットを「プロダクトデザイン」から「舞台美術」に変えようという話をしました。舞台となるテーブルをプロダクトとして設計しますっていうより、最初から舞台を設計しますってした方が、僕的にも古館さん的にも考えやすいんじゃないかと思って。

 

 

  古舘さんは、「舞台美術」としてどういう空間を作ろうと考えられましたか?

 

 

古舘  最初にプロダクトデザインとしてテーブル作ってほしいと言われたときは、材料を集めてアウトプットして作る感覚でいました。そのために福井さんのやってることをチェックしていたんですが、どういうところに製品として落とし込めばいいのか、ずっとふわふわして答えが出ていませんでした。舞台にも明るくないし。いろいろ勉強しないと、と思ったんです。舞台を知らないとできない。でも何から知ればいいのかもわからなかった。そうして悩んでた時に、プロダクトとして関わるというよりは、舞台美術として一緒に舞台を作る方がいいなという話になりまして、それでより直接的なアプローチができるようになった。そんな感じですよね、福井さん?

 

 

福井  そうですね、その方が自由というか......。舞台に対するイメージがないからこそ、自由に考えやすいし、普段活動されてる文脈からアプローチしやすいのかなと思いました。

 

 

   具体的な作業としてはどういうことをしたんでしょうか?

 

 

古舘  ステージデッキをどうしたらテーブルにできるかを話したりしました。いろいろ話があっちこっちいって、どうするんだっけとなり、そこからわりと間が空いて、その間にいろいろ考えてました。テーブル自体への操作で、ステージデッキの脚をテーブルっぽくするとか、脚の先になにかつけるとか。テーブルっぽくしたよという感じがでることで、舞台美術っぽくなるのではと思いました。

R0008088.JPG

稽古風景(写真:小中葵)

でも次第に、テーブル自体への操作ではなくて、テーブルの上にものが載ったり、指の動きがあったりすることで、テーブルにもっていけるんじゃないかと思うようになりました。最近の稽古写真とかで、ものを置いているテーブルを見てると、テーブルに寄ったんじゃないかと思います。サインの話もしながら、テーブルにさらに引き寄せられたらと思ってます。福井さん的にはどうですか?

 

 

福井  家具は既存の空間に対して常に外から持ち込んで使用するものなので、どこでも移動できるもの、ある種の汎用性があるものとして考えて、テーブルの脚だけをデザインするっていう案もありましたよね。それで昔のテーブルみたいに脚が龍になってますみたいな、それは極端ですけど、天板を持ち上げてる脚自体に何か意匠を加えたらいいんじゃないかみたいな。僕の方がテーブルってことを気にしていろいろ余計なことを付け加えたがって。でも最終的にテーブルは板を持ち上げるってことで成立するから、別に余計なことはせんでもええよねって。でもそういう寄り道があってシンプルに落ち着いたのはよかったと思います。

 

 

古舘  最初はロームシアターの床を剥がすって話してましたよね。その時のイメージからあんまり変わってない気もします。

ステージ

黒のテクスチャー

 

福井  劇場の平台を今回の舞台となるテーブルにするために「黒く塗る(塗り直す)」っていう操作がめっちゃしっくりきたので、本当はそうしたかったんですけどね。一回提案していただいた鉄さびを塗って黒くする案とか。結局今回は黒いステージデッキを使うことになったけど、黒く塗るっていうのはもともと劇場にあるものを使うためのアプローチとしていいなと今でも思います。

 

 

   それで言うと、Plawは透明と黒って感じでしたね。

 

 

福井  Plawは、裏から見たら焦げついた木のテクスチャーがよくわかるんですけど、アクリル越しに見ると均質的な「黒」って感じなんですよね。ワークインをやった会場のライティングだと、なんとなくつや感があってゴージャスな黒に見えました。劇場の黒い壁や備品も照明でそうなるけど、やっぱり黒には黒自体のテクスチャーがあるから。そういうところで、Plawと劇場で重なるなって。

plaw2.jpg

PLAW MATERIAL ©︎ SOHMA FURUTATE

古舘  確かに、合ってましたよね。マテリアル感というか、自然物を人工的なプラスチックに写し取っているという行為だったりとか。一度人が規格化したというところで、デスクトップ・シアターとの相性がすごくいいなとは思ってましたね。

 

 

福井  ただ、Plawは舞台の床としてはちょっと見た目がかっこよすぎたんですよね。あと隣の展示スペースで重厚なクラシックがループ再生されてて、その影響でこっちもなんか厳かな雰囲気になっちゃって、おおみたいな。

 

 

   ここまでの話を聞いていて、テーブルをものとして操作するよりも、その見え方を操作しているんだなと感じました。テクスチャーが際立つ見せ方だとテーブル感が出て、照明を当てて素材感を抑えると舞台の次元になる。そうやって光との関係の結び方で見え方が変わる。加えて音に関しても、テーブルっぽく見える音とかあると思うんです。ワークインプログラスのときはそうじゃなかったんだと思いますが笑。そういう、素材をどうこうするだけじゃなくて、光や音のような周囲の環境との関係性の中でステージデッキの受け取られ方を考える作業をしている感じだったのかなと思いましたが、古館さんいかがですか?

 

 

古舘  ステージデッキだけだと、何に見えるのかは人次第だと思います。なので、それに関わってくる全てのもの、照明、置かれるもの、演者が重要です。稽古の写真をslackで追って見たりしてました。出演者の皆さんが、そこでご飯食べてたら机じゃんと思えます。ぼくがテーブルのディテール、テクスチャーをどうにかしてテーブルにするんじゃなくて、色々関わるものがステージデッキをテーブルに成長させていく。どんどんテーブルに育ってきてます。あ、テーブル育ってんな、って見守る役割ですね。ステージデッキはパイプを短く切ってるだけで、そこから何もしてないけど、どんどんテーブルになってきてます。

  

 

   ステージデッキのもう一つの要素、舞台であることに関してはいかがでしょう?

 

 

古舘  舞台であることはあんまり考えてなかったかもしれません。テーブルにすることをずっと意識してたんですが......。

 

 

福井  自分は演出上、テーブルの舞台をずっと「テーブル」として使ってて、「デスクトップ・シアター」というからには、そこを特別な舞台として使うというか、演劇っぽいことをやれた方がいいんじゃないかって思ってたんですけど、ちょっと前に、吉野さんがslackに長文であげていたことを読んで色々気づきがありました。普段テーブルと向き合ってる感覚とか、対面に座ってる誰かとしゃべってる時の感じとか、そういう普段テーブルを使っている時の人とテーブルとの関係性がすでに舞台っぽいんじゃないかって。なので今はテーブルを「テーブル」として素直に使おうとしています。

 

そういうことが行われてる空間の外側が劇場で、使ってるテーブル(ステージデッキ)も劇場の一部ということもある。その場にあったテーブルが用意できた時点で、今回の舞台としてのしつらえはすでにできてるから、そこからテーブルっぽくしたり舞台っぽくするために装飾したりする必要はないなって。テーブルにも、舞台にも過剰に寄せない。古舘さん的には、舞台として最低限のしつらえがあって、そこで上演が行われればOKって感じだったと思うので、そのあたりの線引きは古舘さんと自然にやれてたと思います。舞台にするっていうことについて、照明をこう落としましょうとか、外側からの操作に関する話とか、具体的にテーブルの上でこういうことをしますみたいな話はしてませんでした。最近こういう感じでやってますって写真を共有したぐらいですね。

 

 

   ものへの操作を色々考えた結果、何もしないことになったのはおもしろいですね。

 

福井  テーブルも舞台も具体的なものだから、素材や加工方法から考えるという手もあったけど、人との距離感や関わり方で考えるのが本質だと思いました。素材、加工をどうするかではなく、今のやつになったという感じ。

プロダクトとしてのテーブルに立ち返る

 

   古舘さんは、普段こういうことをされますか?

 

古舘  経験としては新鮮でしたね。ステージデッキ、テーブル自体が、この演劇の中でどういうかたちになりたいんだろうということを考えました。テクスチャー、ディテールとかでなく、関わってくる人とものが全てかなという感じがあった。それがあるうえで、外側からまとめる必要があります。テーブルサインがその役割になっています。見守るだけでなく最後どう締めるのかが重要です。テーブルサインで、プロダクトとしてのテーブルに立ち返って、どうできるかを考えています。

image3-2.jpeg

「デスクトップ・シアター」テーブルサインスケッチ ©︎ SOHMA FURUTATE

   なるほど。テーブルサインの案を拝見しましたが、共通するコンセプトが気になりました。

 

 

古舘  最初に福井さんからテーブルサインを入れたいと言われたときに、レストランの予約席に置いてあるサインや、落語のめくりとか、そういうイメージの画像が送られてきました。でも、今回の演出でこういうものが入ってくるイメージが持てなかったんです。そういうのがあると、他の場所は動いてるのに、そこだけ時間が止まっちゃって、環境が変わっちゃう。めくる行為がありなら、めくりもありですが。テーブルサインは、お客さんがテーブルに着くまでの誘導なので、着いた時点で役割を終えます。そこに行きたい、に応じるだけです。その後にもさりげなく演出に関わることをできたらいいなと思っています。ゆれるとか、ころがるとか。そういうのもありなのかな?

 

共通するコンセプトとしては、どーんとサインがテーブルにある感じです。標識の要素を集めることで、サインらしさ、お客さんが標識だなと思えるものが作れるのではと思って、垂木やバトンのシンプルな形を組んでみたりして、動きをつけたいと思っています。7つのテーブルに置いた時に、なにかが見えてくるものを提案してみました。

 

 

   なるほど、おもしろいですね。昔とある舞台美術家の方が言っていたことなのですが、舞台美術の本質は動きに影響を与えることだそうです。例えば、床をちょっと傾けるだけで、その上にいるときのからだの感覚が変わって、動きも変わります。そういう意味で、舞台美術は振付の一種とも言えることを、お話を伺っていて思い出しました。

 

 

福井  稽古をはじめるまでに古舘さんと話してたことと、吉野さんらとの稽古を経て更新した状況の両方を話せてよかったです。今日はありがとうございました。

プロダクト

ロームシアター京都×京都芸術センター

U35創造支援プログラム“KIPPU”

デスクトップ・シアター

202172日(金)~74日(日)

ロームシアター京都ノースホール

desktoptheater_1.jpg
bottom of page